安全登山のすすめ


山の危険

 山の事故・遭難というと、特別な山や岩登りルートで起きるもので、自分はそんな山には登らないし、行かないから大丈夫、一般の登山者には縁遠いものだ、と言う人がいます。

 山の遭難は、危険な山や岩登りだから起こると勘違いしていないでしょうか。一般的に高い山ほど危険性が増すのは事実ですが、低い山やハイキングだから絶対安全とはいえないのです。少し間違えば自分の身にも起こりうることなのだと自覚して欲しいと思います。

 しかし、危険だからと山を避けていては、登山行為そのものが成り立ちません。山で一番危険なことは、登山者自身が安全だと錯覚し、油断することだと思います。

 最近は、中高年登山ブームや、「日本百名山」ブームで、マナーやルールを無視した登山者が増え、少し前では考えられなかったような初歩的なミスによる事故が多発しています。特に中高年になってから山登りを始めた人たちにその傾向が多く見受けられます。実際に警察の山岳遭難データを見ても、事故の大半は、油断・不注意・無知が原因で発生しています。

 原因別には、半数以上が転落と滑落が占め、病気(8.3%)・疲労凍死(7.7%)・落石(5.7%)・道迷い(5.4%)・雪崩(4.0%)と続きます。
 つまり
1番多い転落と滑落は浮き石に乗った・踏み外した・バランスを崩した・雪や泥でスリップした等々、単純なミスで起きています。

2番目に多い病気は半分以上が心筋梗塞と急性心不全であり、その他は持病の悪化によるもので無理をしなければ防げたはずの事故です。

3番目の疲労凍死というと、風雪舞う冬山を想像しがちですが、夏の雨具忘れや荒天時の着用の遅れによる低体温症によるものが多いのです。これとて自分の体を知っていれば、死に至ることはなかったと考えられます。

4番目の落石も、発生しやすい場所での休憩や休憩方法等の間違え等、避けられたものが多いのです。

5番目の道迷いについては、地図の不所持や下調べの不備、間違い後の判断ミス等、自分勝手な思いこみで事態をますます悪化させています。

簡潔にいえば、一般登山者の遭難・事故原因の多くは、ちょっとした不注意から転んで滑ることであると極言することができます。

 登山で一番大切なことは、山で遭難や事故を自分だけは起こさないという気構えではないかと思います。ちょっとした不注意がもとで、大きな遭難事故を起こせば、家族を悲しませ、大勢の人に迷惑をかけた上に、下手をすると多額の捜索救出費用を負担する羽目になりかねません。

 それを防ぐためには、まず、自分を知り、山を調べ、装備を整え、トレーニングを積めば積むほど危険は少しずつ遠ざかり、事故率は低下していくと考えられます。また、山岳会に加わり、山行を重ねることで、登山の基本的なマナーやルールを守る大切さを学べば、山の危険と楽しさを知ることができるようになります。なんといっても、最近の事故は、未組織登山者が起こす遭難が増えているのですから。



安心登山の10ヶ条

岩崎元郎


はじめに
 安全登山というけれど、絶対安全の保障はどこにもない。
 無事下山するためには、安心して山に登っていられる条件を整えること。
 体力オーケー、家族の理解オーケー、安心の積み重ねが安全登山をプレゼントしてくれる。
 そこで「安心登山の十ヶ条」をつくってみた。
 
第1条  家族の理解を得ておく
 理解を得られないまま、ウソをついて家をでてしまっては危ない。
 山がどれほど実り豊かなものかくりかえし説明して、家族も山好きにしてしまおう。

第2条  装備、服装を整えておく
 近郊の低山だといって、Gパンにスニーカーでは、足が上がらないし、滑りやすい。
 降水確率ゼロパーセントだって、雨具を携行していれば、何かの時に安心だ。

第3条  体力を養成しておく
 日常トレーニングをしておく
 体力あっての安心登山。

第4条  技術を習得しておく
 体力トレーニングをするのはキライ、技術トレーニングは面倒。
 でも日本百名山だから、赤石岳には登りたい、剣岳にも登りたいというのは困る。
 天は自らを助くる者を助く、であろう

第5条  知識を貯えておく
 沢は上流から下流に向かって右側が右岸、左側が左岸。
 これを知らず左右取り違えてガイドブックを読むと大変な間違いをしでかすことになる。
 登山用語を勉強しておきたい。
第6条  計画は万全にしておく
 行き当たりばったりの旅は楽しいけれど、登山でこれをやると、ばったり倒れる結果となりかねない。
 計画を万全にして、計画書を作成し、家族と勤務先に残しておくことが基本。
 安心して山に登れるはずだ。
第7条  いい仲間を育成しておく
 山登りの楽しさは、いい仲間に恵まれてこそ味わえる。
 日頃から、いい仲間を育成しておくことを心がけたい。
 いい仲間と一緒に登ると、その日の登山は楽しくなるし、安心していられるから、バテることもない。

第8条  リーダーシップを発揮する
 善玉コレステロールと悪玉コレステロールがあると聞いた。
 緊張にも善玉と悪玉がある。
 善玉緊張は、ボケ防止の特効薬。
 登山を計画し、仲間を誘うなど、リーダーシップを発揮できると、最良の善玉緊張が得られる。

第9条  メンバーシップを発揮する
 降雨の激しさに登山中止。
 バス停まで下ったら青空。
 この時リーダーの責を問う人は、メンバーシップを発揮できていないといっていい。
 メンバーシップとはリーダーをフォローできることでもあり、それが大切。

第10条  山岳保険に加入しておく
 うちの子に限って、という言葉がある。
 自分に限って遭難するはずがないと思いこんでいる人の多いこと。
 登山中の不幸な事故は、明日はわが身かもしれない。
 山岳保険に加入しておくと安心して登山できる。